失敗すると大打撃!固定残業代制度を導入する際の注意点は?
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Q.残業代について、細かく計算せずに毎月一定額を固定残業手当として支払うことにしたいのですが、制度導入に当たってどのような点に注意が必要でしょうか?
A.固定残業手当が時間外労働の割増賃金に当たると認められるためには、「一定の要件」を満たす必要があります。要件を満たしていないと、固定残業手当を含めた賃金を基礎として、時間外労働の割増賃金を計算し直すことになります。
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企業の「未払い残業代」が狙われている!
労働者が労働基準監督署に駆け込むケースの大半が賃金未払いに関するものです。
また、これまで過払い金返還請求の案件で収益を上げてきた多くの弁護士が、過払い金問題の収束を受けて、次なる稼ぎ口として、労働者をクライアントとした未払い残業代請求の案件獲得に力を入れだしています(いわゆる「過払いから未払いへ」問題です)。
実際に今年に入ってから、「未払い残業代を請求しましょう!」という法律事務所の広告をよく目にするようになりました。
このような状況を受けて、企業としては、残業代が未払いとなっていないか、いま一度確認し、未払い状態が生じている場合には早期に具体的な対策を打つ必要に迫られているといえます。
固定残業代制度が認められるための要件は?
残業代については、固定残業代の制度を採っている企業が少なくないと思います。
この固定残業代制度には、大きく以下の2つのパターンがあります。
基本給 20 万円(この中に残業代 3 万円が含まれる)
基本給 17 万円+固定残業手当 3 万円
A・Bいずれのパターンについても、総支給額が 20 万円で、残業代として固定で 3 万円が支払われることは同じですので、以下、2つのパターンをまとめて固定残業代制度を導入する際の注意点をお話したいと思います。
まず、固定残業代として支払っている金額が、時間外労働の割増賃金として認められるかどうかが問題となります。
最高裁は、割増賃金を定額の基本給に含めて支払う形態に関して、①当該基本給における割増賃金の部分が明確に区別して示され、かつ、②当該割増賃金相当額が法所定の額を満たさないときには、その差額が支払われる旨の合意のあることが必要であると判示しています(小里機材事件・最一小判昭 63 ・ 7 ・ 14 労判 523 号 6 頁)。
採用している固定残業代制度が①と②の要件を満たす場合には、固定残業代として支払っている金額が時間外労働の割増賃金として認められます。
ただしこの場合にも、実際の時間外労働により算出される割増賃金額が固定残業代の額を超えるときには、その差額を別途支払わなければなりません。
固定残業代制度を導入する際の注意点
それでは、採用している固定残業代制度が①もしくは②の要件を満たさない場合はどうなるのでしょうか?
この場合には、固定残業代として支払っている金額が時間外労働の割増賃金として認められず、割増賃金が全く支払われていないものとして扱われてしまいます。
また、それだけでなく、当該固定残業代を含めた賃金を基礎として時間外労働の割増賃金を計算し直し、その全額を別途支払わなければならないのです。
この額は、場合によってはかなり高額となり、企業経営に大きなダメージを与えかねませんので、十分に注意が必要です。
以上の点をふまえて、固定残業代制度を導入する際の注意点をまとめます。
- 固定残業代について、何時間分でいくら分なのかを、就業規則・雇用契約書・給与明細書等に明確に記載しましょう。
- 固定残業代が法所定の時間外労働割増賃金の額を満たさないときには、その差額が支払われる旨を就業規則もしくは雇用契約書に記載しましょう。
- 各労働者について、毎月の時間外労働時間をしっかりと把握し、実際の時間外労働により算出される割増賃金額が固定残業代の額を超えるときには、その差額を別途支払いましょう。
ここまで読んでくださった方はお気付きのことと思いますが、固定残業代制度を適正に運用しようとすると、企業が労働者に支払う残業代は法定の額よりも多くなりこそすれ、少なくなるということはあり得ません。
固定残業代制度を採用するメリットがあるとすれば、人材の採用時に毎月固定で支払う給与の額を多く示せることと、固定残業代でカバーされる時間外労働について細かく割増賃金額を計算しないで済むことくらいではないかと思います。
この点をふまえて、それでも固定残業代制度を導入するという場合には、必ず上記の注意点を守り、労働基準監督署の臨検監督や労働者からの未払い残業代請求に備えましょう。