弁護士 川久保 皆実 オフィシャルサイト

業界内で一目置かれる労働者側弁護士が語る「労働事件の勘所」①

先日、労働問題を扱う弁護士の間で一目置かれている(優秀すぎて絶対に相手方の代理人についてほしくないと言われている)某労働者側弁護士からお話を聴く機会がありました。

労働事件の勘所的な部分を、かなりざっくばらんに話してくださり、労働者側のみならず使用者側の弁護士にとっても非常に勉強になることが多かったので、その内容の一部を備忘録的に書き留めておきたいと思います。

1.退職勧奨について

  • 退職届けを提出してしまうと、後日退職を争うのは困難(諭旨解雇・諭旨退職処分時を除く)。

    ∵意思表示の瑕疵や撤回の主張を裁判所に認めてもらうのは難しい。他方、諭旨解雇・諭旨退職処分時に退職届を出すことを含めて懲戒処分の内容としていた場合には、懲戒が無効となれば退職届も無効になるので退職を争いやすい。

  • 退職勧奨についての慰謝料請求は、仮に認められたとしても10~20万円くらい。

  • 労働者に対して、退職前に、裁判で必要となりそうな書類(規則類、給与明細、出退勤の記録など)のデータを収集しておくように指示している。たとえ持出し禁止の書類であっても、労働者自身の権限でアクセスできる情報であるなら、弁護士に見せる目的の限度でデータを持ち出しても構わないとアドバイスしている。

2.解雇事件について

  • 解雇事件の場合には、まずはじめに労働者から使用者に対して、解雇理由証明書/退職証明書(労基法22条)を発行するよう内容証明郵便やメール等記録が残る形で要求させる。発行してもらえなければ、労基署に申告し、労基署から指導してもらう。解雇理由証明書/退職証明書には、就業規則の該当条項の内容及び事実関係を記入しなければならないため、もし就業規則の該当条項しか記載されていない場合には、再度事実を記入してもらうよう要求する。

    ∵使用者側の解雇理由を早い段階で特定しておくと、後に裁判になった場合に、労働者に有利になることが多い。

    ※弁護士名で内容証明郵便を出すと、使用者側が身構えるため、本人名で要求させるのがポイント。

    ※解雇理由証明書/退職証明書の請求権は2年の消滅時効にかかる。

  • 解雇理由について、前例との均衡(以前に同様な事案が発生した際に解雇したかどうか)は、立証困難だが、立証できた場合には、判決に影響を与える事情となることが多い。

    ※前例があるかを確認するためにも、懲戒委員会の議事録などを早い段階で求釈明する必要がある。

  • 裁判官は嘘を嫌うため、解雇理由が経歴詐称の場合には、労働者にとって分が悪い。労働者側としては、詐称した内容が業務に関する重要なものであるかを確認し、重要性の低いものである場合には解雇までするのは不相当であると主張する。

  • メンタルヘルス不調事案での無断欠勤を理由とする解雇事案については、裁判所は、すぐに解雇するのではなく、まずは病院に行くよう指導すべきとのスタンスをとっている。

  • 業務命令違反は、労働者側にとって不利となりやすい解雇理由である。

  • 能力不足自体を理由として解雇が有効になることは稀。⇒解雇理由が能力不足なのか勤務懈怠なのか曖昧なケースでは、労働者側弁護士としてはなるべく能力不足の方向に持っていくよう努力する。

  • 業務改善計画の目標不達成を理由とする解雇は認められにくい。(退職勧奨後に業務改善計画が作成された場合は特に。)

  • 中途採用の専門職的な労働者については一定の能力が労働契約の内容になっていると評価されるため、解雇は有効となりやすい。ただし、給与が月額50万円程度の場合には、裁判官はこのような労働者に当たらないと判断する傾向あり(部長クラスの裁判官並の給与をもらっているかどうかが一つの基準となる)。

長くなってきたので、続きはまた次回!

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